東京地方裁判所 平成10年(ワ)26345号 判決 1999年3月25日
原告
株式会社北海道拓殖銀行
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護人
阿部裕三
岡野謙四郎
辻佳宏
辻希
被告
Y
主文
一 被告は原告に対し、別紙物件目録≪省略≫記載一及び二の各不動産に設定された別紙根抵当権目録≪省略≫記載の各根抵当権について、平成一〇年一一月四日元本確定を原因とする根抵当権元本確定登記手続をせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文のとおり
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、別紙物件目録記載一及び二の不動産(以下「本件不動産」という。)を所有している。
2 原告は、本件不動産について別紙根抵当権目録記載の各根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定を受け、同目録記載のとおり登記手続をした。
3 原告は、平成一〇年六月二六日開催の株主総会でされた特別決議に基づき、平成一一年三月末日をもって解散し、清算手続に入ることとなった。
そして、右株主総会での特別決議により、原告のこれまでの取引関係の一部は平成一〇年一一月一六日付けでされる営業譲渡により、北海道地区の営業については株式会社北洋銀行(以下「北洋銀行」という。)に、本州地区の営業については中央信託銀行株式会社(以下「中央信託銀行」という。)に、それぞれ承継され、右営業譲渡により承継されない取引にかかる債権については、同年一一月一六日付で株式会社整理回収銀行(以下「整理回収銀行」という。)に譲渡されることとなった。
4 原告が株式会社小森工務店(以下「小森工務店」という。)に対して有する債権及び原告と小森工務店との間の取引関係は、右営業譲渡によって承継される範囲に含まれてはおらず、原告の小森工務店に対する右債権は整理回収銀行に譲渡される予定である。
5 整理回収銀行は、専ら債権の回収を行い、新規の融資を行わないものであるから、今後本件根抵当権の被担保債権を発生させる新規取引がされることはない。
6 原告は、小森工務店に対し、平成一〇年一一月二日、「取引終了」(民法三九八条の二〇一項一号)の通知をし、同通知は同月四日小森工務店到達した。
7 よって、原告は被告に対し、本件根抵当権の被担保債権を発生させる取引の終了に基づき、平成一〇年一一月四日元本確定を原因とする根抵当権元本確定登記手続を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2の事実は認める。
2 同3及び4については不知。
本件根抵当権の債務者である小森工務店と原告との取引関係は中央信託銀行に引き継がれて、当座取引も継続しており、本件根抵当権の被担保債権に対する支払も中央信託銀行の口座から引き落とされているので、小森工務店と原告との取引関係は終了していない。
3 同5の事実は否認する。
4 同6の事実は認める。
5 同7は争う。
理由
一 請求原因1、2及び6の事実については当事者間に争いはない。
二 ≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
1 原告は、平成一〇年六月二六日開催の株主総会において、平成一一年三月末日をもって解散して精算手続に入る旨の特別決議をした。
2 右株主総会における特別決議により、原告のこれまでの取引関係のうち北海道地区の営業は北洋銀行に、本州地区の営業は中央信託銀行に、それぞれ平成一〇年一一月一六日付けで営業譲渡され、右営業譲渡されない債権については同年一一月一六日付けで整理回収銀行に譲渡されることとなった。
三 以上の事実からすると、原告は右特別決議以降、清算手続開始に向けて活動してきているのであり、被告に対し新規の貸付けを行なうことはないものというべきである。
したがって、原告が小森工務店に対し平成一〇年一一月二日付けで「取引終了」の通知をし、同通知が同月四日に到達したことをもって、本件根抵当権の元本が確定したものと解するのが相当である。
四 これに対して、被告は、本件根抵当権の債務者である小森工務店と原告との当座預金取引は中央信託銀行に引き継がれて継続しており、本件根抵当権の被担保債権に対する支払も中央信託銀行の口座から引き落とされているので、小森工務店と原告との取引関係は終了していないと主張する。
しかし、≪証拠省略≫によれば、原告から中央信託銀行に引き継がれたのは、小森工務店についていえば原告に対する預金債権と当座預金取引のみであり、これらの事情だけでは本件根抵当権の被担保債権を発生させる取引が中央信託銀行に引き継がれたものと認めることはできない。また、本件根抵当権の被担保債権に対する支払が中央信託銀行の預金口座を通じてされているとしても、本件根抵当権の確定の事実を覆すことにはならない。さらに、整理回収銀行が小森工務店に対し、本件根抵当権の被担保債権を発生させる取引を行わないことも、同銀行の設立の趣旨及び営業の実態に照らして明らかである。したがって、被告の右主張は理由がない。
なお付言するに、本件において、原告は被告に対し根抵当権者として取引終了に基づく元本の確定を請求しているが、本訴は、いかなる債権が本件根抵当権によって担保される債権の範囲に含まれるかを確定するものではないことはいうまでもない。
五 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋譲)